(株)富士山マガジンサービス:資金繰り

 

結論

 ・在庫を持たない経営

 ・入金タイミング>出金タイミングによる安定した資金繰り

 

企業の概要

 株式会社富士山マガジンサービス(以下:同社)はインターネットを活用した雑誌の定期購読を提供することを主たる事業とする会社です。ネットサイトのFujisan.co.jpを運営しており,登録雑誌は10,000タイトル以上に上ります。取り扱う商品は定期購読雑誌に加えて電子書籍の雑誌も扱っています。

 今回の記事では同社が保有する現金に着目します。直近決算期の2019年12月末での現金及び預金の保有高は2,718百万円で総資産4,366百万円の62%に相当します。なぜこれほど現金保有割合が大きいのでしょうか。同社の資金繰りがいかに安定しているのかを在庫の保有が不要な取次という仕組みと定期購読による資金の流れという観点からみていきます。

 

取次業

 商業は外部から仕入れた商品を購入したうえで,顧客に販売して資金を回収します。仕入れた商品が売れるまでにタイムラグが生じるので,在庫を保有している期間が長いほど資金が圧迫されます。

 同社の保有する在庫は直近決算期である2019年12月末で約2,400万円であり流動資産合計386,000万円の0.6%に過ぎません。同社は購買者の注文を出版社に取り次ぎ,購読者へ料金の請求・回収を行います。回収した料金の一部をコミッションとして受け取り,差額を出版社へ支払っています。

 

定期購読による資金の流れ

 同社は定期購読の購読料を雑誌を送付する前に顧客から受け取ります。雑誌を顧客に届ける前に受け取った現金は会計上,預り金として負債に計上されます。あくまで顧客から預かった現金であるため,最終的には出版社へ雑誌の購入代金(そのまま顧客へ送付される)として使われますが,しばらくタイムラグが生じます。

 例えば,顧客から月間100円の購読料の支払いがあり,毎月100円の雑誌を送付するとします。雑誌の出版社から10%のコミッションを当社受け取る場合,以下の3段階の仕訳がなされます。

①顧客から購読料を受け取ったとき

 (現金)100 (預り金)100

②雑誌を送付したとき

 (預り金)100 (未払金)90

         (売上)10

③出版社へ雑誌の代金を支払うとき

 (未払金)90 (現金)90

 

 最終的に当社に残る現金はコミッションに相当する10円になります。では,顧客から年間の購読料を受け取っていたらどうなるでしょうか。仕訳は下記のとおりです。

①顧客から購読料を受け取ったとき

 (現金)1,200 (預り金)1,200

②雑誌を送付したとき

 (預り金)100 (未払金)90

         (売上)10

③出版社へ雑誌の代金を支払うとき

 (未払金)90 (現金)90

 

 当社が1か月分の雑誌代を出版社に支払っても出版社に支払う残り11か月+コミッションに 相当する現金と預り金が1,100円計上されます。以上の流れによって会社の資金がたくさん保有される状況となります。繰り返しになりますが,いずれは出版社に支払うお金になるので際限なく使うことはできませんが,支払うまでの間は利用することができるお金です。