株式について

 株式は株式会社が発行する証券です。株式会社に出資(お金を出す)すると株式を受け取ることができます。株式を保有している人を株主といいます。

 

 株式をもっているといろいろな見返りがあります。例えば会社が利益を出せば,利益の一部を配当金として受け取る権利を得られます。会社が倒産した場合は残余財産を受け取れます。ほかにも会社を経営する経営者を選任したり,解任したりするのも株式の保有者が決めることができます。

 

 株式を保有していることで生じる義務もあります。それは会社に出資をすることです。一度出資をすると,あとからお金が必要になっても会社に返金を請求することができません。会社が事業を行うために安定した資金を確保するという理由で返金は認められないのです。

 

 株式保有者がお金が必要になった場合どうすればいいのでしょうか。答えは株を売ることです。株は様々な権利もっているので価値があるのです。価値があるものはほかの人も欲しがるのです。そのため、株主が資金が必要になった場合は,他人に売ることを通じて資金を得ることができます。

企業の統治

 企業は多くの人や組織とかかわりながら存在しています。企業の経営は経営者が行います。従業員は企業から給料を受け取るだけでなく、自身の成長を目指したり、従業員同士のコミュニティを作ったりします。顧客は企業から商品やサービスを購入します。仕入先からは原材料を仕入れます。銀行,債権者や株主などから資金の提供を受けています。

 そんな会社がなんの縛りもない状態で事業を行っていたらどうでしょうか。自動車にアクセルがあるけどブレーキがついていない状態です。危険ですね。会社は多数の従業員が協力して事業を行うため1人では到底達成できない大きなことができてしまいます。そのため統治の仕組みがないと恐ろしいことになります。

 統治の仕組みには,株主による経営者の選任・解任,労働組合,金融機関による監視などがあります。このうち最も強いのが株主による統治です。経営者は株主によって選任されるため,株主に資するような事業活動を行います。労働組合「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体」、すなわち、労働者が団結して、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくる団体です。

 統治の限界として経営者と株主が同じ場合があります。これは同族経営や一族経営と呼ばれております。経営者が会社の所有者である株主となるので,会社を好き勝手にできてしまう危険性が潜在的に備わっています。

 経営者は社会で存在を許されているから事業を行えていると心にとめながら考えることが重要だと思います。

  

戦略とは何か

 企業が外部環境とのかかわり方の基本方針を示したものが戦略です。外部環境とは,資本市場,原材料市場,労働市場,製品市場など様々です。このうち,特に製品市場との関係に着目したものが戦略と呼ばれます。

 

 戦略とは,「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」である(伊丹・加護野,2003, p.20)

 

 市場,特に製品市場には多数の競合他社が顧客に対して製品を提供しているので,自社の製品を顧客に選んでもらえるようにする必要があります。そのために戦略が必要となります。

 組織とは,組織で働く従業員に響くような戦略が必要であるということです。

 活動とは,戦略が実行できるように資源配分がされる必要があるということです。

 長期的とは,長い時間を見据えた構想が必要であるということです。

 基本設計図とは,大きな構想を意味するものであり,細かなことを設計することではないということです。

 

 戦略とは,「企業や事業の将来のあるべき姿とそこに至るまでの変革のシナリオ」を描いた設計図,である(伊丹・加護野,2003, p.23)

 

 戦略論の議論は,経営者が今後数年間の行動指針として戦略を事前に考えるということからスタートしている(高橋編著, 2011, p.13)。

 

 

 

伊丹敬之・加護野忠男(2003)『ゼミナール経営学入門 第3版』日本経済新聞出版社

高橋伸夫編著(2011)『よくわかる経営管理ミネルヴァ書房

 

企業とはなにか

企業について考えてみたいと思います。考えるにあたって経営学と経済学の著書を抜き出します。

 (経済体としての)企業とは技術的変換という仕事を行い,それによって付加価値という成果を生み出す存在(伊丹・加護野,2003, p.3)。

 企業外部から自社が必要なインプットを購入する。購入したインプットに技術的変換を加える。その結果として生み出される製品やサービスを市場で売却する。

 企業とは顧客の創造を行うためにマーケティングイノベーションを担う機関である(ドラッカー, 2006訳, pp.46-47を基にまとめる)。

 市場は,神や自然や経済によって創造されるのではなく,企業によって創造される。企業の行為が人の欲求を有効需要に変えたとき,はじめて顧客が生まれ市場が生まれる。顧客が欲求を感じていない場合もある。その場合も企業が顧客の欲求を生み出したとき,顧客が創造される。

 企業とは,生産要素を生産物に変換する組織である(コース,1992訳,p.8)。

 

 企業(business enterprise)とは,事業を企てることであって,起業家(entrepreneur)は激変する社会の必要とする新しい製品やサービスの可能性を見抜き,自己の危険負担のもとで,人,物および金を結合してそれらを創り出し,社会に提供し利益を獲得して,利害関係者に配分する。

 

以上の定義を旅館を例に考えます。

 必要なインプットや生産要素:人材,食材,固定資産,消耗品などでしょうか。

 技術的変換:お客が快適と感じ,宿泊の満足を感じられるあらゆるサービスを提供するというアウトプットや生産物を想定します。そのためにインプットとして購入した人材はお出迎え(車庫入れ,荷物運び),受付(チェックイン),インフォメーションセンター,清掃員(客室内,客室外,温泉,レストラン),コック,ウェイターなどを担い顧客にサービスを行います。食材はコックが調理しておいしい料理を提供します。

 

 なお,経営学では「現実の企業を理解することが目的」であるために,(企業について)最初から結論を先に置くような定義は設けないという主張もあります(井原, 2008, p.17)。

 

Coase, R. H.(1992)『企業・市場・法』東洋経済新報社

Drucker, P. E. (2006)『現代の経営(上)』ダイヤモンド社

伊丹敬之・加護野忠男(2003)『ゼミナール経営学入門 第3版』日本経済新聞出版社

井原久光(2008)『テキスト経営学第3版』ミネルヴァ書房

 

(株)富士山マガジンサービス:資金繰り

 

結論

 ・在庫を持たない経営

 ・入金タイミング>出金タイミングによる安定した資金繰り

 

企業の概要

 株式会社富士山マガジンサービス(以下:同社)はインターネットを活用した雑誌の定期購読を提供することを主たる事業とする会社です。ネットサイトのFujisan.co.jpを運営しており,登録雑誌は10,000タイトル以上に上ります。取り扱う商品は定期購読雑誌に加えて電子書籍の雑誌も扱っています。

 今回の記事では同社が保有する現金に着目します。直近決算期の2019年12月末での現金及び預金の保有高は2,718百万円で総資産4,366百万円の62%に相当します。なぜこれほど現金保有割合が大きいのでしょうか。同社の資金繰りがいかに安定しているのかを在庫の保有が不要な取次という仕組みと定期購読による資金の流れという観点からみていきます。

 

取次業

 商業は外部から仕入れた商品を購入したうえで,顧客に販売して資金を回収します。仕入れた商品が売れるまでにタイムラグが生じるので,在庫を保有している期間が長いほど資金が圧迫されます。

 同社の保有する在庫は直近決算期である2019年12月末で約2,400万円であり流動資産合計386,000万円の0.6%に過ぎません。同社は購買者の注文を出版社に取り次ぎ,購読者へ料金の請求・回収を行います。回収した料金の一部をコミッションとして受け取り,差額を出版社へ支払っています。

 

定期購読による資金の流れ

 同社は定期購読の購読料を雑誌を送付する前に顧客から受け取ります。雑誌を顧客に届ける前に受け取った現金は会計上,預り金として負債に計上されます。あくまで顧客から預かった現金であるため,最終的には出版社へ雑誌の購入代金(そのまま顧客へ送付される)として使われますが,しばらくタイムラグが生じます。

 例えば,顧客から月間100円の購読料の支払いがあり,毎月100円の雑誌を送付するとします。雑誌の出版社から10%のコミッションを当社受け取る場合,以下の3段階の仕訳がなされます。

①顧客から購読料を受け取ったとき

 (現金)100 (預り金)100

②雑誌を送付したとき

 (預り金)100 (未払金)90

         (売上)10

③出版社へ雑誌の代金を支払うとき

 (未払金)90 (現金)90

 

 最終的に当社に残る現金はコミッションに相当する10円になります。では,顧客から年間の購読料を受け取っていたらどうなるでしょうか。仕訳は下記のとおりです。

①顧客から購読料を受け取ったとき

 (現金)1,200 (預り金)1,200

②雑誌を送付したとき

 (預り金)100 (未払金)90

         (売上)10

③出版社へ雑誌の代金を支払うとき

 (未払金)90 (現金)90

 

 当社が1か月分の雑誌代を出版社に支払っても出版社に支払う残り11か月+コミッションに 相当する現金と預り金が1,100円計上されます。以上の流れによって会社の資金がたくさん保有される状況となります。繰り返しになりますが,いずれは出版社に支払うお金になるので際限なく使うことはできませんが,支払うまでの間は利用することができるお金です。

 

 

(株)IDOM:棚卸資産

結論

 ・中古車販売大手ガリバー(Gulliver)を運営する(株)IDOMは2014年以降,卸売業に加えて小売業に進出した。

 ・業種の拡大により成長性が高まったが,売上増加が企業の成功とは限らない。

 ・卸売時代は自動車を長期間保有しないために2週間以内にオークションで販売するという規定を設けた。この仕組みによって安定した営業活動によるキャッシュ・フローを実現していた。

 ・小売業に進出した結果,商品の保有期間が増加し,営業活動によるキャッシュ・フローが不安定になった。

 

前提知識:棚卸資産と資金繰り

 棚卸資産は会社が所有する材料,仕掛品,製品,商品(自社で加工をせずに仕入れた場合)の総称です。今回の記事では商品に着目します。

 

 商品は多種多様です。スーパーやコンビニに行けば食品、雑貨、日用品などがあふれています。書店に行けば書籍やDVD,ゲームソフトなどが販売されています。中古車販売店では敷地内にたくさんの自動車が並べられています。これらは全て商品です。

 

 商品を扱うことで重要なことの一つが資金繰りです。通常,事業者は商品を購入してから顧客に販売をします。すなわち,先に商品の仕入に必要なお金を調達する必要があります(掛仕入は無視)。無事商品を手に入れてもすぐに売れるわけではありませんし売れない可能性もあります。お客さんが買ってくれてようやくお金が回収できるのです。

 

 ここで食品,ゲームソフト,中古車という商品の仕入単価と売れるまでの期間を考えてみましょう。3つの商品の中でコンビニで売られている食品は単位当たりの仕入単価は低く,ゲームソフトは食品よりは仕入単価が高いです。中古車は最も仕入単価が高いため,それだけ多くの資金を拘束することになります。単価5,000円のゲームソフトと1台500,000円で仕入れた中古車ではどちらが多くの資金が必要かは明白です。

 

本題

 

株式会社IDOMの概要

 株式会社IDOM(以下IDOM)はガリバーブランドを中心に日本全国で500店舗を有する東証一部に上場している企業です。創業は1994年です。2020年2月期の売上高は3,616億円であり,国内中古車販売関連の上場企業の中で最も売上の大きな企業です。

 IDOMは自社の事業展開を創業時(1994年~2014年)と小売拡大ステージ(2014年以降)の2つに分類しています。創業時の事業は自動車の買取・卸売が中心でした。この時点では一般消費者から自動車を仕入れ,中古車業者向けのオークションで自動車を販売するというビジネスを行っていました。小売拡大ステージでは,卸売りに加え,自社で小売店舗を設けて,一般消費者に対して中古車を販売するというビジネスを行うようになりました。

 

 ビジネスを拡大した背景には自社の成長の伸び悩みが背景にあったのではないかと推測します。2005年2月期の売上高が1,567億円で2013年2月期が1,434億円です。2005年以降売上高の変化がほとんど見られません。小売拡大ステージを経た2014年以降の売上高は右肩上がりで増加し,2020年2月期の売上高は3,616億円にまで拡大しました。

 

財務諸表の分析

 それでは業種の拡大は自社にとってプラスであったのでしょうか。この点を棚卸資産の回転日数とキャッシュフローの観点から検討します。

 

 まずは棚卸資産の回転日数です。これは棚卸資産の金額を日商(1日当たりの売上高)で割ることによって算定します。日商の何日分程度の棚卸資産保有しているのかを把握するのに役立ちます。

 

棚卸資産回転日数

 2005年2月期 10.6日

 2014年2月期 20.2日

 2020年2月期 79.8日

 

 創業期の2005年,小売拡大ステージの2014年,直近会計期間の2020年で比較すると上記のようになります。棚卸資産回転日数が右肩上がりで増加していることがわかります。2005年は約11日で中古車が売却できていたのに対して,2020年では約80日かかることがわかります。

 結果の解釈ですが,この棚卸資産保有日数の増加が直ちに経営にとって悪いことであるとは言えません。なぜなら業種によって棚卸資産保有水準は異なるためです。卸売業と小売業では業種が異なるのです。小売業は一般消費者向けの販売なのでIDOMが売ろうと思ってもすぐにお客さんが買ってくれるわけではなく,ある程度の商品を保有することはやむ負えません。

 

 次にキャッシュ・フロー計算書を確認します。キャッシュ・フロー計算書のうち,営業活動によるキャッシュフロー情報は本業でしっかりと現金を稼げているのかを把握することができます。

 キャッシュ・フロー計算書の分析においては長期的な趨勢を捉える必要があるため,2005年~2020年までの16年分の期間を取ります。

 

営業活動によるキャッシュフロー(単位:百万円)

創業期

 2005年2月期 2,724

 2006年2月期 4,442

 2007年2月期 6,103

 2008年2月期 1,354

 2009年2月期 △6,539(うち棚卸資産増加による影響△2,326)

 2010年2月期 △3,586(うち棚卸資産増加による影響△1,562)

 2011年2月期 14,253

 2012年2月期 10,665

 2013年2月期 3,064

小売拡大ステージ 

 2014年2月期 10,061

 2015年2月期 56

 2016年2月期 4,121

 2017年2月期 △4,632(うち棚卸資産増加による影響△8,916)

 2018年2月期 6,989

 2019年2月期 △19,593(うち棚卸資産増加による影響△26,865)

 2020年2月期 13,757

 

 数値の推移を見ると創業期はリーマンショックの期間に営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっていることがわかります。一方小売拡大ステージでは2017年と2019年がマイナスとなっています。注目すべきは営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスに示す棚卸資産の影響です。創業期は影響が20億程度なのに対して小売拡大ステージでは90億,270億円と大きな影響がしょうじていることがわかります。商品在庫が増加したことによって販売がうまくいかない場合は資金繰りに大きなリスクが生じることが示唆されます。

参考文献

1.(株)IDOMの事業展開

221616.com

2.羽鳥由宇介(2013)「卸から小売りに業態転換、IT活用で車の流通革命を」日系クロステック。

xtech.nikkei.com

 

3.(株)IDOM有価証券報告書 

221616.com