トヨタ自動車の営業活動によるキャッシュ・フロー
有価証券報告書に記載される財務諸表の中に,キャッシュ・フロー計算書がある。キャッシュ・フロー計算書の構造と,特に理解がしにくい営業活動によるキャッシュ・フローを説明したのちに,トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ自動車)の連結キャッシュ・フロー計算書を読み解いていく。
〇結論
- キャッシュ・フロー計算書は営業活動によるキャッシュ・フロー,投資活動によるキャッシュ・フロー,財務活動によるキャッシュ・フローの3つに分かれている。
- 多くの有価証券報告書提出企業は,営業活動によるキャッシュ・フローを間接法で作成している。
- トヨタ自動車の営業活動によるキャッシュ・フローの調整で大きな金額を占めているのは「減価償却費及び償却費」と「金融事業に係わる債権の増減」である。
〇キャッシュ・フロー計算書の区分
キャッシュ・フロー計算書は,特定期間の収入と支出を区分別に明らかにする計算書である。
収入と支出は営業活動,投資活動,そして財務活動という3つの区分で表示される。
営業活動は本業から生じるキャッシュ・フローであり,トヨタ自動車であれば,自動車の生産・販売によって生じる正味(収入と支出の差額)の現金が記載される。
投資活動は,工場や機械への投資であったり,金入商品の購入や売却の収支が記載される。
財務活動は資金調達に伴う収支が記載される。例えば銀行からの借入や増資などは収入となり,借入の返済や配当金の支払いなどは支出として表示される。
3つのキャッシュ・フロー区分のうち,営業活動によるキャッシュ・フローは税引前利益(IFRS基準であれば当期利益)を調整して,キャッシュを計算するという形をとっている。これは間接法という作成方法である。有価証券報告書を提出する企業のほとんどは,間接法を用いている。
〇間接法の原理
間接法は利益計算のうち,収入とならない収益項目を減算し,支出とならない費用を加算してキャッシュに直していく過程をキャッシュ・フロー計算書に示す。
費用のうち現金支出を伴わない典型は減価償却費である。減価償却費は適正な期間損益計算の観点から行われる。
例えば5年使用するつもりの固定資産を100億円でキャッシュ一括購入をしたとする。キャッシュ・フロー計算書上では購入時点でのみ投資活動のキャッシュ・フローの内訳に支出額が記載される。
100億円の固定資産を定額法で5年間償却すると年間20億円の減価償却費が損益計算書に計上される。減価償却費が差し引かれて税引前利益が計算されている。
減価償却費は支出が伴わない費用である。そのため,税引前利益に減価償却費を加算するとキャッシュの金額になる。
次に現金収入を伴わない項目として売上債権を確認する。売上債権は信用販売をした際に計上される資産項目であり,回収時点でキャッシュが入ってくる。売上債権の相手勘定は売上高(収益)であり,損益計算書に計上され,利益が計算される。
売上債権による売上高は収入が伴わない収益である。そのため税引前利益に当期増加した売上債権を減算してキャッシュの金額に直す。
間接法では,以上のような調整を経て営業活動によるキャッシュ・フローを計算する。
トヨタ自動車の2024年3月期の有価証券報告書を用いて,最新年度の営業活動によるキャッシュ・フローを見ていく。
トヨタ自動車の当期利益は5,071,421百万円(約5兆円)であり,営業活動によるキャッシュ・フローは4,206,373百万円(約4.2兆円)である。当期利益と比較して8,000億円程度営業キャッシュが少ないことがわかる。
当期利益から営業活動によるキャッシュ・フローに調整する過程で特徴的な項目を見ていく。ひとつは「減価償却費及び償却費」2,087,066百万円(約2兆円)である。減価償却費は現金支出が伴わない費用なので当期利益に加算する。
なお,トヨタは年間1千万台以上の自動車を製造する能力をもつ。そのためには多くの工場や機械を保有する必要がある。最新年度の有形固定資産は14,257,788百万円(14.2兆円)保有している。
次に「金融事業に係る債権の増減(△は増加)」△3,398,434(約△3.4兆円)である。この項目は自動車をローンで販売したことに伴う債権の増加額である。自動車ローンで販売をすると,定期的に元金の返済と利息収入を得ることができるが,自動車を販売した直後は現金収入を得られない。
一般に,自動車の販売が伸びると,金融事業に係る債権(自動車ローン)も増加する。短期で見ると債権の増加は,キャッシュ上はマイナスとなる。
ただし,トヨタ自動車の信用力であれば低金利で資金調達が可能であり,これを用いて自動車ローンで販売をして金利収入を得れば,調達金利(支払利息)よりも販売金利(受取利息)が上回る限り,長期的には正味キャッシュがプラスになる。
実際,トヨタ自動車や日産自動車など自動車組み立てメーカーは自動車の生産・販売による利益以外に,ローン販売を主とした金融収益も,経営の大きな柱である。
以上より,キャッシュ・フロー計算書は企業の資金の流れを把握するために欠かせない財務諸表であり,特に営業活動によるキャッシュ・フローは企業の本業によるキャッシュ創出力を示す重要な指標である。トヨタ自動車のような製造業かつ金融事業を展開する企業では,減価償却費や債権の増減といった要素がキャッシュ・フローに与える影響が大きく,その読み解きには会計的な知識と事業構造への理解が求められる。キャッシュ・フロー計算書を正しく分析することで,企業の実態をより深く把握できる。
参考
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