㈱メタプラネットとビットコイン

 暗号資産,とりわけビットコインは,近年その金融資産としての位置づけが大きく変化しており,企業の資産戦略にも影響を及ぼし始めている。株式会社メタプラネット(以下メタプラネット)の事例をとりあげ,同社が採用したビットコイン事業を確認し,それが財務諸表にどのような変化をもたらしたのかを分析する。

 

 同社は,2024年4月よりビットコイン・トレジャリー戦略を採用した。第26期の有価証券報告書には以下の記述がある(pp.10-11)。

 

 「2024年、メタプラネットは従来の資産集約型ビジネスからアジアを代表するビットコイン・トレジャリー企業へと完全に移行しました。年間を通じてビットコイン保有量を0から1,762BTCまで増加させ、これは世界の上場企業の中でも最速のペースとなりました。この急速な蓄積は、内部資本、革新的な金融手法、株式連動型資金調達戦略を組み合わせることで実現され、慎重な財務管理を維持しながらビットコインエクスポージャーを最大化しました。
 さらに、アジア市場で過去最大規模のビットコイン資金調達計画「21ミリオン・プラン」の実施により、2025年以降の持続的な財務基盤の拡大が可能となりました。」

 

 具体的な戦略の説明は見られないが,ビットコインの調達を事業の中心に据えていることがわかる

 

 メタプラネットの第26期有価証券報告書を用いて,2023年12月末(以下前年度)と2024年12月末(以下当年度)の連結貸借対照表を比較する。

 

 資産合計は,前年度1,666百万円に対して,当年度が30,325百万円であり,資産額が約18倍増加している。増加の原因は投資その他の資産に計上されているビットコイン26,348百万円である。

 

 どのように資金調達を行ったのかを貸方科目で確認する。

 

 前年度には計上されていなかった1年内償還予定の社債が当年度に11,250百万円計上されている。社債により調達した資金を用いてビットコインを購入したことがわかる。

 

 また,株主資本も前年度の1,130百万円から当年度の16,939百万円と大幅に増加している。増加原因は新株の発行による増資12,084百万円当年度の当期純利益4,439百万円が利益剰余金に振り替えられたことにある。

 

 社債の発行と増資を中心として資金調達を行い,ビットコインに投資したことがわかる。


 次に企業業績を連結損益計算書を用いて確認する。

 

 売上高は前年度261百万円から当年度1,062百万円である。当年度の内訳はビットコイントレジャリー事業691百万円,ホテル事業370百万円であるため,売上高の増加原因はビットコインにある。売上原価と販管費に大きな変化はない。前年度は営業損失が468百万円生じているが,当年度は営業利益350百万円が生じている。

 

 また,当年度は営業外収益ビットコイン評価益が5,457百万円計上されている。この評価益が当期純利益に大幅に貢献している。前期は当期純損失683百万円を出しているが,当期は当期純利益4,439百万円である。

 

 以上のように,メタプラネットはビットコインにコミットした事業を展開していることがわかる。今後の同社の業績はビットコインの変動に依存する

 

 ビットコインの相場は1組織がコントロールできるものではない。ビットコインの相場動向が同社の業績に大きな影響を与える可能性があり,その変動リスクには今後も注視が必要である。

 

 以上のように,メタプラネットは資金調達手段として社債および新株発行を活用し,ビットコインへの積極的な投資戦略を推進してきた。同社の財務状況および業績は,現時点ではこの戦略により大幅に改善された形となっている。しかしながら,ビットコインの価格は組織外の要因に強く依存しており,その将来的な変動が企業価値に与える影響は大きい。