10期連続赤字のJDIが存続できる理由

 赤字だと倒産するわけではない。倒産は借入金の返済や社債の償還,買掛金の支払いなどが伴うタイミングで現金預金を用意できないとおきる10期連続で最終赤字を計上している株式会社ジャパンディスプレイ(以下JDI)が存続できている理由を探る。

 

〇結論

  • 赤字が継続すると,返済義務のない資金調達源である純資産が減少し資産の大部分を返済義務のある負債で賄う
  • 負債による調達は,支払期日が決まっているため,業績が悪い企業は資金の返済ができずに倒産に至る。
  • JDIはいちごトラストにより,増資による純資産の増加や,債務を株式に転換するなどの資金援助が行われている。これが10期連続の赤字を計上していても,JDIが存続できる理由である。
  • いちごトラストがなぜ,JDIを支援するのかは不明。いちごトラストがどこから資金調達を行っているのかも不明。

 

 

 

 

 

 

〇JDIの沿革と業績の推移

 現在の㈱ジャパンディスプレイに至るまでの沿革を概観する。

 

 同社の源流は㈱日立ディスプレイズにある。㈱日立ディスプレイズ(2012年に㈱ジャパンディスプレイイーストに社名変更),㈱東芝モバイルディスプレイ(2012年に㈱ジャパンディスプレイセントラルに社名変更),ソニーモバイルディスプレイ㈱(2012年に㈱ジャパンディスプレイウェストに社名変更)の3社が,㈱ジャパンディスプレイ統合準備会社(2012年に旧㈱ジャパンディスプレイに社名変更)に全株式を取得させることで誕生した。これが,旧㈱ジャパンディスプレイである。

 

 翌2013年4月1日に㈱ジャパンディスプレイイーストが自らを存続会社として,旧㈱ジャパンディスプレイ,㈱ジャパンディスプレイセントラル,㈱ジャパンディスプレイウェスト,及び㈱ジャパンディスプレイイーストの100%子会社であった㈱ジャパンディスプレイイーストプロダクツと合併することで現在の㈱ジャパンディスプレイが誕生した。

 

 非常に複雑な経緯でかつ企業名がたくさん出てくるが主に,㈱ソニー,㈱東芝,㈱日立製作所の中小型液晶ディスプレイ事業を統合して誕生したのが㈱ジャパンディスプレイ(以下JDI)である。


 JDIは2013年度は33,918百万円の当期純利益を獲得している。しかし,その後は10期連続の最終赤字である。最終損失の推移を以下に示す。

 

 2014年度:△12,270百万円
 2015年度:△31,840百万円
 2016年度:△31,664百万円
 2017年度:△247,213百万円
 2018年度:△239,656百万円
 2019年度:△106,585百万円
 2020年度:△101,417百万円
 2021年度:△42,696百万円
 2022年度:△8,096百万円
 2023年度:△44,313百万円

 

 赤字を出すことの経営上の問題はなにか。これを考えるためには貸借対照表の構造と赤字の関係を知る必要がある。貸借対照表は借方に資産,貸方に負債と純資産が記載される。負債と純資産は資産の調達源泉を表す。

 

 負債で資産を調達した場合は,決められた期日までに返済をする義務がある。純資産で資産を調達した場合は,返済義務がない。そして,最終利益を獲得すると純資産が増加し,最終赤字を計上すると純資産が減少する。

 

 つまり,赤字を出し続けると資産の調達源泉の割合が負債に偏る。負債は決められた期日までに返済をする必要がある。純資産を減らすほど資産が減少するため返済する原資も減少する。これが赤字を出すことの経営上の問題であり,赤字の額が多くなるほど,また赤字期間が長くなるほど,純資産が減少して負債の割合が大きくなる。

 

 ところで,資金調達の源泉には負債と当期純利益以外に増資がある。増資は株式を引き受ける対価として株主が資金を払い込む方法である。増資が行われると純資産が増加する。株主は企業が成長することによる配当の受取りと株価の上昇を期待するため,成長が見込めない企業には増資による資金が集めにくいが,このような方法も存在する。

 

 以上を踏まえたうえでJDIが10期連続の赤字であっても経営を続けられる理由を検討する

 

いちごトラストの支援

 JDIが設立された2013年度は純資産が352,401百万円(約3,520億円)計上されていた。負債の金額は353,830百万円(約3,530億円)なので,自己資本比率は約50%である。負債と純資産半々で資産を調達していた。

 

 その後毎期を赤字を計上してきたので,純資産は徐々に減少した。設立6年後の2019年3月31日の純資産は,わずか862百万円(8億円)になってしまっている。同時点の負債総額は537,639百万円(約5,370億円)であり,自己資本比率は0.16%にまで低下した。

 

 しかし,翌年度は,赤字101,417百万円を計上したにもかかわらず純資産が53,363百万円に増加している。増加の理由はいちごトラストというファンドがJDIの増資を引き受けたからである。新株の発行の結果,2019年3月31日の資本金・資本剰余金が152,400百万円(1,540億円)増加している。この結果,自己資本比率が13.6%まで回復した。

 
 その後も赤字を計上し続けたが,2022年3月31日もいちごトラストが増資を引き受けたことで36,010百万円(360億円)純資産が増加している。さらに,この年度にJDIの長期借入金が消滅している。

 

JDIの救世主~投資ファンドいちごはシャイロックなのかアントーニオなのか~個別株予想に挑む - Robustaf

上記のブログを運営されているロバスタフさんによると,長期借入金が減少した理由は,この借入金は産業革新機構から調達したものであり(産業革新機構にとっては貸付金であり債権である),いちごトラストが同機構から債権を買い取ったためであると解説されている。さらにいちごトラストはJDIに対する債権相当額をJDIの株式と交換することでJDIを実質無借金経営(金利が発生する負債を負っていない)の状態にしたという。

 

 現在,いちごトラストはJDIの発行済み株式の78.19%保有しており,筆頭株主となっている。いちごトラストがJDIに資金提供をしてきていることもみてきたJDIが存続できている理由はいちごトラストからの資金援助にあると考えられる。

 

 それではなぜいちごトラストというファンドはJDIを支援するのだろうか。一般にファンドは「投資先企業の価値向上」を行い「投資リターンの獲得」を目指す。つまり支援先の経営を再建して,ファンドが保有する株式の価値を増大させたのちに株式を売却する。株式の取得原価と売却額の差額がファンドの利益になる。

 

 しかし,JDIはいちごトラストの資金援助を受けてからも業績が回復しておらず,価値は高まっていないいちごトラストはJDIの再建ができると考えて支援を行ってきたのか,何か別の意図があるのかは不明である。

 

 

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