(株)IDOM:棚卸資産

結論

 ・中古車販売大手ガリバー(Gulliver)を運営する(株)IDOMは2014年以降,卸売業に加えて小売業に進出した。

 ・業種の拡大により成長性が高まったが,売上増加が企業の成功とは限らない。

 ・卸売時代は自動車を長期間保有しないために2週間以内にオークションで販売するという規定を設けた。この仕組みによって安定した営業活動によるキャッシュ・フローを実現していた。

 ・小売業に進出した結果,商品の保有期間が増加し,営業活動によるキャッシュ・フローが不安定になった。

 

前提知識:棚卸資産と資金繰り

 棚卸資産は会社が所有する材料,仕掛品,製品,商品(自社で加工をせずに仕入れた場合)の総称です。今回の記事では商品に着目します。

 

 商品は多種多様です。スーパーやコンビニに行けば食品、雑貨、日用品などがあふれています。書店に行けば書籍やDVD,ゲームソフトなどが販売されています。中古車販売店では敷地内にたくさんの自動車が並べられています。これらは全て商品です。

 

 商品を扱うことで重要なことの一つが資金繰りです。通常,事業者は商品を購入してから顧客に販売をします。すなわち,先に商品の仕入に必要なお金を調達する必要があります(掛仕入は無視)。無事商品を手に入れてもすぐに売れるわけではありませんし売れない可能性もあります。お客さんが買ってくれてようやくお金が回収できるのです。

 

 ここで食品,ゲームソフト,中古車という商品の仕入単価と売れるまでの期間を考えてみましょう。3つの商品の中でコンビニで売られている食品は単位当たりの仕入単価は低く,ゲームソフトは食品よりは仕入単価が高いです。中古車は最も仕入単価が高いため,それだけ多くの資金を拘束することになります。単価5,000円のゲームソフトと1台500,000円で仕入れた中古車ではどちらが多くの資金が必要かは明白です。

 

本題

 

株式会社IDOMの概要

 株式会社IDOM(以下IDOM)はガリバーブランドを中心に日本全国で500店舗を有する東証一部に上場している企業です。創業は1994年です。2020年2月期の売上高は3,616億円であり,国内中古車販売関連の上場企業の中で最も売上の大きな企業です。

 IDOMは自社の事業展開を創業時(1994年~2014年)と小売拡大ステージ(2014年以降)の2つに分類しています。創業時の事業は自動車の買取・卸売が中心でした。この時点では一般消費者から自動車を仕入れ,中古車業者向けのオークションで自動車を販売するというビジネスを行っていました。小売拡大ステージでは,卸売りに加え,自社で小売店舗を設けて,一般消費者に対して中古車を販売するというビジネスを行うようになりました。

 

 ビジネスを拡大した背景には自社の成長の伸び悩みが背景にあったのではないかと推測します。2005年2月期の売上高が1,567億円で2013年2月期が1,434億円です。2005年以降売上高の変化がほとんど見られません。小売拡大ステージを経た2014年以降の売上高は右肩上がりで増加し,2020年2月期の売上高は3,616億円にまで拡大しました。

 

財務諸表の分析

 それでは業種の拡大は自社にとってプラスであったのでしょうか。この点を棚卸資産の回転日数とキャッシュフローの観点から検討します。

 

 まずは棚卸資産の回転日数です。これは棚卸資産の金額を日商(1日当たりの売上高)で割ることによって算定します。日商の何日分程度の棚卸資産保有しているのかを把握するのに役立ちます。

 

棚卸資産回転日数

 2005年2月期 10.6日

 2014年2月期 20.2日

 2020年2月期 79.8日

 

 創業期の2005年,小売拡大ステージの2014年,直近会計期間の2020年で比較すると上記のようになります。棚卸資産回転日数が右肩上がりで増加していることがわかります。2005年は約11日で中古車が売却できていたのに対して,2020年では約80日かかることがわかります。

 結果の解釈ですが,この棚卸資産保有日数の増加が直ちに経営にとって悪いことであるとは言えません。なぜなら業種によって棚卸資産保有水準は異なるためです。卸売業と小売業では業種が異なるのです。小売業は一般消費者向けの販売なのでIDOMが売ろうと思ってもすぐにお客さんが買ってくれるわけではなく,ある程度の商品を保有することはやむ負えません。

 

 次にキャッシュ・フロー計算書を確認します。キャッシュ・フロー計算書のうち,営業活動によるキャッシュフロー情報は本業でしっかりと現金を稼げているのかを把握することができます。

 キャッシュ・フロー計算書の分析においては長期的な趨勢を捉える必要があるため,2005年~2020年までの16年分の期間を取ります。

 

営業活動によるキャッシュフロー(単位:百万円)

創業期

 2005年2月期 2,724

 2006年2月期 4,442

 2007年2月期 6,103

 2008年2月期 1,354

 2009年2月期 △6,539(うち棚卸資産増加による影響△2,326)

 2010年2月期 △3,586(うち棚卸資産増加による影響△1,562)

 2011年2月期 14,253

 2012年2月期 10,665

 2013年2月期 3,064

小売拡大ステージ 

 2014年2月期 10,061

 2015年2月期 56

 2016年2月期 4,121

 2017年2月期 △4,632(うち棚卸資産増加による影響△8,916)

 2018年2月期 6,989

 2019年2月期 △19,593(うち棚卸資産増加による影響△26,865)

 2020年2月期 13,757

 

 数値の推移を見ると創業期はリーマンショックの期間に営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっていることがわかります。一方小売拡大ステージでは2017年と2019年がマイナスとなっています。注目すべきは営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスに示す棚卸資産の影響です。創業期は影響が20億程度なのに対して小売拡大ステージでは90億,270億円と大きな影響がしょうじていることがわかります。商品在庫が増加したことによって販売がうまくいかない場合は資金繰りに大きなリスクが生じることが示唆されます。

参考文献

1.(株)IDOMの事業展開

221616.com

2.羽鳥由宇介(2013)「卸から小売りに業態転換、IT活用で車の流通革命を」日系クロステック。

xtech.nikkei.com

 

3.(株)IDOM有価証券報告書 

221616.com